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この記事を読むべき人
- 日本企業で働く(または働く予定の)外国人ビジネスパーソンで、敬語の3分類は知っているが、いざ口に出すときに尊敬語と謙譲語のどちらを使うか固まる
- 日本人ビジネスパーソン(社会人1〜3年目/新卒)で、教育課程では何となく習ったが、顧客対応や上司への報告で「これ尊敬語?謙譲語?」と毎回考えてしまう
- 帰国子女・留学経験者で、日常会話はこなせるがビジネス敬語の使い分けが感覚で曖昧
- すでに 職場で通じる敬語ガイド を読んだ人で、3分類の概念は押さえたが、尊敬語と謙譲語の境界線そのものを深掘りしたい
この記事は 「3分類の解説」ではなく「2つの境界線を3秒で判定する道具」 です。冒頭の判断フローと20動詞の対照表だけ覚えれば、現場の8割は対応できます。
結論を1文で(時間がない人向け)
動作主が相手なら尊敬語(おっしゃる・いらっしゃる)、動作主が自分なら謙譲語(申す・参る)。この1つの判断で職場の敬語の8割は決まります。残りの2割は、自分の上司を社外に話すときの「ウチ/ソト反転」と、二重敬語を避けるルールです。
「動作主は誰?」3秒判断フロー
迷ったときは、この3ステップを順番に通せば毎回正解にたどり着きます。
ステップ1:動作主は相手か自分か
文の中で 「実際に動作するのは誰か」 を真っ先に特定します。「主語」ではなく 「動作主」 と捉えるのがコツです。日本語の文では主語が省略されることが多いので、「言ったのは誰か/行くのは誰か/読むのは誰か」と動作で考えるほうが速いです。
- 動作主=相手(上司・顧客・取引先など、立てるべき相手)→ 尊敬語
- 動作主=自分(自分・自分の家族・自社の同僚・自社の上司)→ 謙譲語
ステップ2:相手はウチかソトか
動作主が自分側だと分かったら、次に 「自分が今、ウチ/ソトのどちら側として話しているか」 を確認します。
- ウチ:自分・自社・自分の家族・所属コミュニティ
- ソト:取引先・顧客・他社・初対面の社外の人
ウチ/ソトはステップ3の動詞選択そのものは変えません。ただし、自社の上司について社外の人に話すとき だけは、上司が「ソト視点から見たウチ」になり、上司の動作にも謙譲語を当てます。これが第8章で扱う 「ウチ/ソト反転」 の原則です(迷っても先にステップ3に進んで問題ありません)。
ステップ3:動詞を選ぶ
ステップ1で「尊敬語」と決まったら、相手の動作に当てる動詞を選びます。「謙譲語」と決まったら、自分の動作に当てる動詞を選びます。代表的な動詞は次章の対照表にまとめました。
60秒復習:段階別A/B/Cフレームと動作主軸の関係
Real-World Japaneseでは、敬語を A/B/Cの3段階の丁寧度 で整理しています(初出のみA→B→Cと書き、以降は「段階A/B/C」と表記)。
| 段階 | 丁寧度 | 使う相手 |
|---|---|---|
| A | カジュアル | 同期・親しい後輩・家族 |
| B | ニュートラル丁寧(迷ったらここ) | 上司・他部署・初対面の社内 |
| C | フォーマル | 顧客・役員・謝罪・公式文書 |
段階Aと段階Bは「丁寧語の領域」 です。敬意の方向は意識せず、文末を「です/ます」で整えるだけで成立します。
段階Cで初めて、尊敬語と謙譲語の使い分けが必要 になります。段階Cは動作主によって縦に2つに割れます。
- 動作主=相手 → 尊敬語(おっしゃる・いらっしゃる・召し上がる)
- 動作主=自分 → 謙譲語(申す・参る・いただく)
つまり、本記事のテーマは 「段階Cの中の左右の切り分け」 です。段階A/Bが安定していない方は、先に 敬語を最短で身につける学習法 で丁寧語を固めてから戻ってきてください。
頻出20動詞の4列対照表
職場でよく出る20動詞を、丁寧語・尊敬語・謙譲語の3列で並べました。まずこの20個を覚えれば、ビジネス会話の8割を回せます。
表に無い動詞や、より詳しい変換表は 敬語チートシート に網羅しています。
表の見方
- 動詞:辞書形(プレーンな形)
- 丁寧語:文末を整えただけの形(段階A/B)
- 尊敬語:動作主=相手のときに使う形(段階C・他者)
- 謙譲語:動作主=自分のときに使う形(段階C・自分)
20動詞対照表
| 動詞 | 丁寧語 | 尊敬語(動作主=相手) | 謙譲語(動作主=自分) |
|---|---|---|---|
| 行く | 行きます | いらっしゃる・おいでになる | 参る・伺う |
| 来る | 来ます | いらっしゃる・お見えになる | 参る |
| いる | います | いらっしゃる | おる |
| 言う | 言います | おっしゃる | 申す・申し上げる |
| する | します | なさる | いたす |
| 食べる | 食べます | 召し上がる | いただく |
| 飲む | 飲みます | 召し上がる | いただく |
| 見る | 見ます | ご覧になる | 拝見する |
| 聞く | 聞きます | お聞きになる | 伺う・拝聴する |
| 知っている | 知っています | ご存じだ | 存じる・存じ上げる |
| 会う | 会います | お会いになる | お目にかかる |
| 思う | 思います | お思いになる | 存じる |
| 考える | 考えます | お考えになる | 存じる |
| 読む | 読みます | お読みになる | 拝読する |
| 書く | 書きます | お書きになる | お書きする |
| 与える | 与えます | くださる | 差し上げる |
| 受け取る | 受け取ります | お受け取りになる | いただく・頂戴する |
| 買う | 買います | お求めになる | 求める |
| 呼ぶ | 呼びます | お呼びになる | お呼びする |
| 待つ | 待ちます | お待ちになる | お待ちする |
表に無い動詞は「お/ご〜になる」「お/ご〜する」で作る
専用の尊敬語・謙譲語が無い動詞は、機械的な型で作れます。
- 尊敬語:「お/ご + 動詞連用形 + になる」
- 例:説明する → ご説明になる、検討する → ご検討になる、確認する → ご確認になる
- 謙譲語:「お/ご + 動詞連用形 + する/いたす」
- 例:説明する → ご説明する/ご説明いたす、送る → お送りする/お送りいたす、報告する → ご報告する/ご報告いたす
「いたす」は「する」の謙譲語なので、「ご説明いたします」は「ご説明する」よりさらに1段階フォーマル(段階C)になります。社外メールの結びでは「いたします」を選んでおけば外しません。
「自社の上司を社外に話す」ウチ/ソト反転ミニ対話
ステップ2で予告した ウチ/ソト反転 を、実際の場面で見てみます。状況は「取引先からの電話を取り、自社の部長について話す」場面です。
注:以下の対話で [尊] は尊敬語、[謙] は謙譲語、[丁] は丁寧語の意味です。
取引先: 「お世話になっております。○○商事の田中です。山田部長はいらっしゃいますか?」
↑[尊]動作主=部長(取引先から見れば部長はソト=立てる対象)
あなた: 「お世話になっております。あいにく山田はただいま外出しております。」
↑[謙]動作主=部長
(ただし自分側に取り込まれているので謙譲語)
取引先: 「では、戻られたらお電話くださいとお伝えいただけますか?」
↑[尊]動作主=部長 ↑[尊]動作主=部長(取引先視点)
あなた: 「承知いたしました。山田が戻り次第、お電話差し上げるようお伝えいたします。」
↑[謙]動作主=自分 ↑[謙]動作主=部長 ↑[謙]動作主=自分
(自社人物としてソト視点で謙譲語)
どこでウチ/ソトが反転するか
行ごとに「動作主」と「敬語の方向」を見比べてみます。
- 取引先の発話:部長の動作には 尊敬語(「いらっしゃいますか」「戻られたら」「お電話ください」「お伝え」)。取引先から見れば部長は ソト なので立てる対象。
- あなたの発話:同じ部長の動作なのに 謙譲語(「外出しております」「お電話差し上げる」)。あなたから見れば部長は ウチ(自社の人)なので、社外の取引先に対しては低める。
- 自分の動作には全行を通して 謙譲語(「承知いたしました」「お伝えいたします」)。
反転ポイント: 部長は「絶対的に偉い人」ではなく、「相手から見たらソト/自分から見たらウチ」という相対的な位置で敬語が変わります。これが日本語敬語の最大のつまずきポイントです。
同じ内容を社内会議で言ったらどう変わるか
同じ「部長が外出している」という情報を、社内会議で同僚に伝える場合は次のようになります。
「山田部長はただいま外出していらっしゃいます。」(社内発話)
社内では部長はあなたから見ても「立てる対象」なので、尊敬語(「いらっしゃる」)に戻ります。同じ動作・同じ人物でも、聞き手が誰かで敬語が180度ひっくり返る — これがウチ/ソト反転です。
よくある5つの誤用:動作主取り違え3+二重敬語2
日本人ビジネスパーソンでも頻繁にやるミスを、2つの系統に分けて並べます。
A. 動作主取り違え型(3例)
「自分の動作に尊敬語」「相手の動作に謙譲語」を当ててしまう典型ミスです。敬意の方向が逆になるため、相手に違和感を与えます。
| ✗ 誤用 | ◯ 正用 | なぜダメか |
|---|---|---|
| 部長が参られました | 部長がいらっしゃいました | 「参る」は謙譲語(動作主=自分)。動作主が部長なので尊敬語の「いらっしゃる」を使う。 |
| お客様が申されました | お客様がおっしゃいました | 「申す」は謙譲語(動作主=自分)。動作主が客なので尊敬語の「おっしゃる」を使う。 |
| 私が召し上がります | 私がいただきます | 「召し上がる」は尊敬語(動作主=相手)。動作主が自分なので謙譲語の「いただく」を使う。 |
B. 二重敬語型(2例)
すでに敬語化された動詞にさらに「〜られる」を重ねたり、「お/ご」を二重に付けたりするパターン。1つの動詞に敬語を2層かけたらアウト が原則です。
| ✗ 誤用 | ◯ 正用 | なぜダメか |
|---|---|---|
| 部長がご覧になられました | 部長がご覧になりました | 「ご覧になる」自体が「見る」の尊敬語。「られる」を重ねると敬語2層になり過剰。 |
| お客様がお聞きになられました | お客様がお聞きになりました | 「お聞きになる」が尊敬語。「られる」を重ねると同じく過剰。 |
二重敬語のメカニズム: 「より丁寧にしよう」という気持ちが、すでに敬語化されている動詞にもう一段足してしまう動きを生みます。原則として 「お/ご + 〜になる」または「〜られる」のどちらか一方 で十分です。慣用化された例外(「お伺いいたします」「お召し上がりください」など)もありますが、迷ったら「重ねない」と覚えておけば安全です。詳しくは 外国人がやりがちな敬語ミス8選 のミス4を参照してください。
謙譲語の2種類:一般的な謙譲語Iと「丁重語」II
検索で出てくるけれどどこにも整理されていない「謙譲語I/II」の違いを1段落で整理します。
文化庁『敬語の指針』(2007) では、謙譲語を「謙譲語I」と「謙譲語II(丁重語)」の2種類に分類しています。
- 謙譲語I:行為の 向き先となる相手 を立てる謙譲語
- 例:「伺う」「申し上げる」「お送りする」「拝見する」「お目にかかる」
- 「明日、部長のところへ 伺います」→ 動作主=自分/向き先=部長を立てる
- 謙譲語II(丁重語):行為の向き先ではなく 聞き手だけ を立てる謙譲語
- 例:「参る」「申す」「いたす」「おる」「存じる」
- 「明日、部長のところへ 参ります」→ 動作主=自分/向き先(部長)は立てない/聞き手(上司・顧客など)を立てる
実務での見分けポイント: 「行為の向き先となる相手」がはっきりいる場合は謙譲語I、聞き手だけを立てたい場合は謙譲語II。たとえば社内の会議で「明日出張に 参ります」と言うのは、出張先の特定の相手を立てるのではなく、聞いている同僚・上司を立てる丁重語の用法です。
迷ったら謙譲語I/IIを意識せず、文脈に合った動詞を選べば自然と使い分けられます。本記事の20動詞対照表では、両者が混在しています(例:「行く」の謙譲語列「参る・伺う」は丁重語+謙譲語I)。
シーン別早見表(メール/電話/接客/社内会議)
実務で使う4シーンについて、最頻出の尊敬語1つと謙譲語1つだけを並べました。各シーンの深掘りはsibling記事に渡します。
| シーン | よく出る尊敬語(相手の動作) | よく出る謙譲語(自分の動作) | 深掘りはこちら |
|---|---|---|---|
| メール | ご確認ください/ご検討ください | お送りいたします/ご報告いたします | ビジネスメールテンプレ集 |
| 電話 | お電話くださいますか/いらっしゃいますか | お電話差し上げます/申し伝えます | 敬語の例文30選(電話対話) |
| 接客 | いらっしゃいませ/お決まりですか | 承りました/お伺いいたします | 職場で使える敬語フレーズ100 |
| 社内会議 | おっしゃるとおりです/ご意見ありがとうございます | ご説明いたします/拝見いたしました | 敬語の例文30選(会議冒頭) |
早見表の使い方: 各シーンで最初の1分に必要な「最頻出の1組」だけまず覚え、残りはsibling記事に戻って必要なときに引く運用が現実的です。
学習負荷を半分にする「受信時/発信時」の分離
敬語の動詞をすべて自分の口から出せるようにする必要はありません。「受信時に意味が取れればよい動詞」と「発信時に口から出るべき動詞」を分けると、覚える量がほぼ半分 になります。
| 受信時:意味が取れればよい(聞いて/読んで理解できれば十分) | 発信時:口から出るべき(自分でも言えるようになる) |
|---|---|
| 尊敬語の特殊動詞(いらっしゃる・おっしゃる・召し上がる・ご覧になる など) | 謙譲語の特殊動詞(参る・申す・いたす・拝見する・伺う・いただく など) |
| 相手が使ってくる尊敬語表現(「ご検討くださる」「お決めいただく」) | 自分が使う「お/ご〜いたします」型の謙譲語 |
理由: 職場で自分の口から出るのは「自分の動作」がほとんどで、つまり謙譲語が中心です。尊敬語は相手の発話を聞き取れさえすればよく、自分から積極的に発声する場面は会議で他者の意見を引用するときなどに限定されます。「謙譲語10動詞は完全に口から出るレベル/尊敬語10動詞は意味が取れれば合格」 で運用すると、学習負荷が現実的なサイズに収まります。
よくある質問
(FAQはこのページの先頭にも構造化データとして埋め込まれています)
尊敬語と謙譲語は同じ文に混ぜていい?
むしろ混ぜるのが普通です。1つの文に「相手の動作」と「自分の動作」が両方出てきたら、それぞれに尊敬語と謙譲語を当てます。「部長がご覧になった資料を、私がご説明いたします」は前半が尊敬語、後半が謙譲語で、両方が同居して自然な敬語文になります。
尊敬語と謙譲語、覚えるならどちらが先?
謙譲語が先です。職場で「自分の動作」を口にする頻度のほうが「相手の動作」を口にする頻度より明らかに高いからです。電話を取る/メールを送る/資料を持っていく — どれも主語は自分なので、謙譲語が出てくれば即対応できます。
友だち相手にも使う?
使いません。同期や親しい後輩、家族・友人が相手なら、丁寧語(です/ます)すら不要なケースが多いです。本記事の段階Aレベルの相手には、尊敬語も謙譲語も基本不要です。
「お」と「ご」はどちらに付く?
両方に付きます。「お」は和語、「ご」は漢語に付くのが原則で、尊敬語にも謙譲語にも使います。見分けは「お/ご + 〜になる」なら尊敬語、「お/ご + 〜する」なら謙譲語、と動作主で判定してください。
「させていただく」は尊敬語と謙譲語のどちらか?
謙譲語です。ただし「相手の許可が必要な行為」に対して使うのが本来の用法で、自分が主体の通常業務に乱発すると過剰敬語に聞こえます。「会議室を使わせていただきます」は自然、「資料をお送りさせていただきます」は過剰。詳しくは 外国人がやりがちな敬語ミス8選 を参照してください。
謙譲語Iと謙譲語II(丁重語)はどう違う?
敬意の向き先が違います。謙譲語Iは「行為の向き先となる相手」を立てる謙譲語(「伺う」「申し上げる」)、謙譲語II(丁重語)は「聞き手だけ」を立てる謙譲語(「参る」「申す」「いたす」)。文化庁の指針が線引きしている公式分類です。
次に読むべき関連記事
本記事の内容を実務で使い倒すには、以下のsibling記事と合わせて読むのが最短です。
- 職場で通じる敬語ガイド — 敬語全体を体系的に整理したピラー記事。3分類の概念解説とA/B/Cフレームの原典。
- 敬語チートシート — 本記事の20動詞より詳しい変換表。プリント保存推奨。
- 敬語の例文30選 — 場面別フレーズ・対話・メール全文。本記事の理屈を「フル例文」で確認したいときに。
- 外国人がやりがちな敬語ミス8選 — 本記事の誤用5例の深掘り版。致命度1〜3で優先順位を整理。
- 敬語を最短で身につける学習法 — 90日ロードマップ。本記事で「何を覚えればいいか」が見えたら、次に「どう覚えるか」をここで決める。
- 職場で使える敬語フレーズ100 — 1日の業務シーン別フレーズ集。シーン別早見表の深掘り版。
業務でそのまま使えるフレーズ集
本記事の20動詞表を「メール冒頭・電話・会議・接客」のフル文に展開した Essential 30 PDF(300円)をGumroadで配布しています。スマホとPCのどちらでも開けるPDFで、A4 1ページに収まる早見表+フルセンテンス例文集です。詳細は Essential 30商品ページ をご覧ください。